今回は社会主義フェミニズムの紹介をします。
社会主義フェミニズムは「リベラル・フェミニズム、ラジカル・フェミニズム、マルクス主義フェミニズム」という三大フェミニズムの内の、マルクス主義フェミニズムの前段にあたるものです。
フェミニズムの歴史の中では比較的地味に、そしてネガティブに描かれがちなのですが、重要な考えも含まれているし功績も大きいので、その辺りの事もキチンと書いていこうと思います。
1.マルクス主義フェミニズムとの違い
「社会主義フェミニズム」とは言うものの、実際に依拠しているのはマルクス主義です。
※マルクス主義は社会主義の一種。
それでは、社会主義フェミニズムとマルクス主義フェミニズムの違いはと言うと、その担い手は誰だったのかを考えればわかりやすいでしょう。
- 社会主義フェミニズム →マルクス主義者の女性。
- マルクス主義フェミニズム → マルクス主義を取り入れたフェミニスト。
もちろん、社会主義フェミニストの中には「マルクス主義者の男性」もいたのですが、
社会主義フェミニズムの担い手はフェミニストではなくマルクス主義者だったと言うべきである。
ということです。
それでは何故マルクス主義がフェミニズムと関係があるのかと言うと、マルクス主義は女性を解放する理論でもあったからです。
2.『家族・私有財産・国家の起源』
哲学者カール・マルクスと、その盟友フリードリヒ・エンゲルスは当時の知識人としてはめずらしく、女性の権利の拡大や保護を目指していたことはあまり知られていません。
特にエンゲルスの『家族・私有財産・国家の起源』は、その観点においても非常に重要な文献です。
エンゲルスによると、人類社会はもともと女性優位に営まれていたのですが、あることをきっかけとして男女の地位が逆転してしまったようです。
富が増大するのに比例して、この富は、一方では家族内で男性に女性よりも重要な地位を与え(…)母権制の転覆は女性の世界史的敗北であった。男性は家のなかでも舵をにぎり、女性は品位を穢され、隷属されられて、男性の情欲の奴隷、子供を産む単なる道具となった。
出典元:フリードリヒ・エンゲルス『家族・私有財産・国家の起源』
※母権制とは、家族や親族集団などの権力を女性がもっているような社会制度のこと。現在ではその存在は否定されているが、新石器時代の初期までは女性の地位はかなり高かったとも言われている。
このように述べてはいるものの、エンゲルスは母権制の復活を企図していたわけではありません。
エンゲルスたちが目指していたのは私有財産制の打倒です。さらに彼は、「生産力の増大による私有財産制の発生が女性の隷属化にも繋がった」という観点も提示しました。
3.理想と現実
「私有財産の撤廃 = 共産主義の実現が女性の自由にもつながる」という見解をエンゲルスたちマルクス主義者は持っていました。
まあ、マルクス主義が掲げていたのは「労働者階級(プロレタリアート)の解放」だったので「女性の解放」は副次的な問題だったのですが、
マルクス主義者の中でも特に「女性の解放」に重きを置いていたのが社会主義フェミニストという認識で良いでしょう。
さて、マルクス主義は理理想の上では女性の解放に繋がるものだったのですが、現実はそうはなりませんでした。
大越愛子氏はこのように述べます。
女たちは、解放をめざして、革命と動乱の時代を男たちを支えて闘った。だが明日の体制変革のために、 男性労働者や革命家に対する女たちの無私の献身が、特に性的な献身が正当化されたことは、大きな矛盾だった。
出典元:大越愛子『フェミニズム入門』
おそらくですが、大越氏がここで言っているのは新左翼の男子学生のことだと思います。
「新左翼」と言えば、日本では安保闘争で有名ですね。
安保闘争は、そのリーダー的存在だった西部邁氏が「当時は安保条約の内容すら知らぬ者がほとんどだった」と言うように、無知な学生がかなり多かったようです。
彼らの目的は、
左翼活動をしていた人から当時の話を聞くと、めちゃくちゃ。女子大へオルグ(宣伝・勧誘)に行って、「よし革命のためだ!」とかって、みんなヤッちゃうとか。津田塾は入れ食いだったとか、酔うにつけめちゃくちゃな話が出てくる。
出典元:福田和也『無礼講』
このようなものでした。
この「性的な献身の正当化」に対して起こったのがウーマン・リブです。
なので大越氏のこの批判は、マルクス主義ではなく「マルクス主義者の運動に便乗してやりたい放題やっていた学生」へ向けられるべきでしょう。
4.無償労働と女性
しかし、マルクス主義の理論自体にもフェミニズム的な観点からは不備がありました。
資本主義国はもちろん、共産主義革命を成功させたソ連や中国においても、女性は職場労働と家事労働の二重労働にさらされることになったのです。もっと詳しく言うと、女性は、
- 家事労働や子育てや介護など家庭内での労働の従事。
- 賃金を稼ぐ仕事でも、女性は「二流の労働者」として扱われることが多かった。
という問題を抱えていました。れらの問題を解決するために登場したのがマルクス主義フェミニズムです。
もちろん、マルクスも「労働者の家庭がやらざるを得ない無償の労働」を問題視していました。
労働者階級の不断の維持と再生産とは、依然として資本の再生産のための恒常的条件である。資本家はこの条件の充足を安んじて労働者の自己保存本能と生殖本能とにまかせておくことができる。
出典元:カール・マルクス『資本論』
要するに、
- 労働者は勝手に家事や自身の身体のケアをするので、資本家がその手当をする必要はない。
- 労働者は勝手に子を産み育てる→ 労働者階級は再生産される。
ということです。
マルクスはこれらの「無償の労働」が女性に割り当てられるメカニズムまでは解明していませんでした。
マルクス主義フェミニズムは、このメカニズムを[家父長制]という概念を使って解明していくことになります。