今回は古代ギリシャの都市国家ポリスについて書いていきます。
ポリスは世界史の授業ではそれ程重要ではないかもしれませんが、思想史的には極めて重要です(特に最大のポリス、アテナイ)。
ポリスの定義はアリストテレスのものを参考にしましょう。
「ポリスとは等しい者たちの共同体である。そして、可能なかぎり最善の生を目的とする。」
「等しい者たち」とは誰か?「可能なかぎり最善の生」とは何か?
これらは順を追って解説していこうと思うのですが、
アリストテレスが想定している[ポリス]とは、彼が住んでいたこともあり、主にアテナイを指していると思われます。
古代ギリシャならびに完成されたポリスであるアテナイは哲学者からの評価も高く、マルクス主義でお馴染みのカール・マルクスは、
「人類がもっとも美しく花咲いた人類の歴史上の子供時代・・・永遠の魅力・・・ギリシア人。」
と、ロマン主義系の詩人のような文体で賛辞を贈っています。
彼が創始した共産主義的なものをもっとも上手く取り入れたのは、アテナイを撃破したもう一つの巨大ポリス、スパルタでした。
さらに言えば、スパルタにはもちろん、アテナイにさえも奴隷がいたという事実があることも押さえておきましょう。
というわけで今回は、2大ポリスであるスパルタとアテナイを中心に、ポリスの実態について見ていこうと思います。
目次
1.ポリス代表 その1【スパルタ】
まずは軍事特化型ポリス(征服型ポリスとも)スパルタから見ていきましょう。スパルタの社会構成は以下を目安にしてください。
1-1.スパルタの構成員について
総人口26万9千人。時期的にはマケドニア王国がポリスを次々と配下に置く中、孤軍奮闘マケドニア王国に抵抗していた時です。
それでは、スパルタの各構成員の詳細を見ていきましょう。
- 完全市民→厳格・屈強に鍛えられた成人男性が中心。日々行うのは政治と軍事訓練。元々は紀元前11or10世紀にペロポネソス半島に侵攻し、先住民のアカイア人を征服したドーリア人。
- ペリオイコイ(周辺の住民)→ スパルタの中心地の周辺に住み、主に商工業に携わった、参政権を持たない低級の市民。兵役も一応あり、戦争に駆り出されていた模様。ドーリア人の一部とアカイア人、メッセニア人によって構成。
- ヘイロタイ(沼沢地に住む人)→ スパルタに所有された農奴。代々所定の土地に縛られ収穫物の一部をスパルタに献上していた。アカイア人やメッセニア人で構成。
ドーリア人は好戦的な民族で古代ギリシャのミケーネ文明を崩壊させた後、様々な地域に侵攻しポリスを設立します。その代表例がスパルタです。
ちなみに彼らが強かった理由は鉄器を使っていたからです。
ドーリア人は鉄器を使っていたので、青銅器を使っていたミケーネ人よりも戦闘力が高かったわけですね。
ドラクエ11でいうと…
- 鉄のつるぎ→ 攻撃力:20、鉄のよろい→ 守備力:32。
- 青銅のつるぎ→ 攻撃力:16、青銅のよろい→ 守備力:24。
なので戦闘力の差は一目瞭然でしょう。
1-2.ヘイロタイとは
スパルタはメッセニア人も征服します。その結果広大な土地を獲得するのですが、非常に多くのヘイロタイも抱えることになります。
これは完全市民にとって良いことばかりではありません。
ヘイロタイは圧倒的に人口で勝るため、完全市民(+ペリオイコイ)は武力では上だとは言え常に反乱のリスクを抱えることになったのです。
また、ヘイロタイは割り当てられた土地に住まい、耕作をしていたため集団を形成出来たことや、
強い抑圧に対し不満を持っていたことも反乱のリスクを高めました。
アリストメネス戦争というヘイロタイの反乱では、スパルタは勝利するもののかなりの痛手を負います。
この教訓からスパルタはヘイロタイへの抑圧を強め、完全市民にはリュクルゴス制を設けることになるのです。
1-3.リュクルゴス制とは
- 貧富の差を無くした共産主義的な体制で、贅沢を戒め金属貨幣の鋳造も禁止し、質実剛健を旨とした。土地(クレーロス)を平等に与える、共同で食事をとるなどをして連帯意識を高めた。
- 子どもは国家のものとされ、いわゆる[スパルタ教育]を実施された。【生まれてすぐ】病弱でひ弱な子どもは捨てられる。【7歳~成人】軍隊の駐屯地に集められ共同生活が行なわれる。厳しい規律の下、学習と訓練をうける →[女性]主に強い子どもを産む母体の育成のための体育訓練。[男性]主に戦争で活躍するための軍事訓練。また、男女ともに丸坊主にされ、下着姿に裸足で訓練をさせられた。
このような戦争に適した集団を作ることで、スパルタは古代ギリシャにおける最強の軍事力を誇るポリスになります。
これはやがてペロポネソス戦争でアテナイを破り、古代ギリシャの覇者になる要因にも繋がります。
ポリス代表 その2【アテナイ】
次に見るのは文化・経済型ポリス、アテナイです。アテナイの社会構成は以下を目安にしてください。
2-1.アテナイの構成員については
総人口33万人。時期的にはペルシャ戦争に勝って全盛期を迎えた頃。
もう少しするとペロポネソス戦争でスパルタに負け、大規模な人口減少と衰退の途を辿ります。
それでは、アテナイの各構成員の詳細を見ていきましょう。
- 市民→ 服従的な関係を排した対等な関係で結ばれた成人男性が中心。農業をすることもたまにあったが、政治的・文化的活動、軍事訓練が日々の業務。元々は紀元前20世紀頃からギリシャに定住したイオニア人。
- メトイコイ(居留外国人)→ アテナイを訪れた難民や移民が1カ月以上滞在するとメトイコイとして登録される。担ったのは商工業や芸術、学問や日雇い労働。従軍義務もあったが、市民ではないので参加権はなかった。
- 奴隷→主に、奴隷貿易を通じて市民から買われた異民族。召使や秘書、農業、商工業や鉱山労働など様々な労働にあたった。
アテナイがドーリア人から侵略されなかった理由は土地が肥沃ではなかったからと言われています。
地中海での海上交易に活路を見い出し、経済的に発展していきます。
また、ラウリオン銀山で大量に銀が取れたこともアテナイの繁栄に大きく貢献しました。
アテナイとスパルタ(というか、基本的にポリス)には奴隷がいるし成人男子が中心なので似たり寄ったりだと思うかもしれませんが、
アテナイが後世から評価されるのは、市民の間で花開いた文化的な活動です。
もう一つの巨大ポリス、スパルタはポリス間の戦争とヘイロタイの反乱に備えるため、極端な軍国主義になりました。
その結果、文化的活動をストップしてしまったわけですね。
2-2.メトイコイとは
アテナイは元々、難民の一部を受け入れていたのですが、紀元前7世紀にソロンが積極的に移民の受け入れを開始します。
この革命が功を奏し、アテナイは経済的に発展したのですが、
一部の有力な移民は市民権を得たものの、それ以外の人々はあくまで移民扱いのままでした。
これがメトイコイの始まりです。
アテナイが栄えるにつれ周辺ポリスからの人の流入が増えすぎたためか、紀元前5世紀のペリクレスの時代には、
両親がアテナイ市民の者のみに市民権を認めることになります。
ところで、紀元前5世紀は哲学史においては非常に重要な時代です。
あのソクラテスが生まれ、プロタゴラスやゴルギアスなどの[ソフィスト]も大量に流入します。
ソクラテスの哲学 = ソフィストとの闘いの記録と言っても過言ではないのですが、時期的には、
プロタゴラスやゴルギアスもメトイコイだったことになります。
準備中
それだけではありません。
あのアリストテレスですらスタゲイラというポリスの出身の移民だったため、アテナイの市民権は認められませんでした。
メトイコイの中にも富や名声のある人間もいましたが、それと市民権は別だったわけですね。
2-3.ポリスと奴隷
奴隷とは人格を無視され、所有物として扱われる人々のことです。「物言う道具」という呼び方もされます。
確保する方法は、
- 異民族を征服して奴隷にする(スパルタが典型例)。
- 奴隷貿易で取引されている戦争捕虜を買い取る(アテナイが典型例)。
- 借金を返せなかった市民が身売りする。
スパルタは共産主義体制を布いていたため、完全市民は商売が出来ません。よって、奴隷貿易も出来ません。
一方アテナイは奴隷貿易を積極的に利用していました。
ペロポネソス戦争で戦局が不利になり、名君ペリクレスも死に煽動家が民会を支配した時期は例外です(メロス包囲戦)。
スパルタの植民都市である小ポリス、メロスに戦勝した際、アテナイは成人男子全員を処刑し、女子どもを奴隷にしたのですが、
これは生活の必要というよりも、見せしめ刑としての側面が強かったのでしょう。
奴隷の待遇については、スパルタの奴隷ほど過酷な待遇だったわけではないという説もあるようです。
アテナイでは市民が召使いとして奴隷を買うことが一般的で、その場合は資産として、基本的には大事にされていました。
ただし、ラウレイオン銀山の採鉱の目的で買われた奴隷などはもっと過酷な労働環境だったようです。
この辺りも時代によって変化があるのかもしれません。
3.ポリスと市民
ポリスは市民が、もっと言うと成人男性が中心の社会です。
ポリス内での女性の地位はどのようなものだったのでしょうか。
3-1.ポリスでの女性の地位
基本的にポリスでは、市民においても男性より女性の地位は低かったのですが、意外とスパルタでは女性の地位は高かったようです。
理由は「女性は強い兵士を産み得るから」という現代的な価値観とはそぐわない内容です。
しかし、現代においても「女は子供を産む機会」と言う人もいるぐらいですから、古代のポリスではこのような価値観は普通でした。
そうなってくると「女性の出産能力」を強調し尊重したスパルタでは、逆に女性は尊敬される存在になるのです。
アテナイでは女性は階級こそ[市民]ですが、人々の認識内では不完全な市民とされていました。
従事するのは家庭内の仕事や家内産業で、男性をサポートするような立ち位置だったようです。
3-2.アリストテレスのポリス論
冒頭の話題に戻りましょう。アリストテレスいわく、
「ポリスとは等しい者たちの共同体である。そして、可能なかぎり最善の生を目的とする。」
アリストテレスの真意はともかく、実態としては[等しい者]とは、ポリス内の成人男性のことでした。
それでは[最善の生]とは一体何なのでしょうか。
アリストテレスはこのようにも言います。
「無条件的な意味での市民とは、ただ、判決と支配に関することによって規定される。」
この[判決]と[支配]がキーワードになっているようです。
3-2-1.[判決]とは
裁判において一定の役職を務め得る能力のこと。
3-2-2.[支配]とは
立法、行政その他の国家事業において一定の役職を務め得る能力のこと。
[判決]と[支配]を十分にこなすことで「ポリスの在り方を自分で決めている」という自覚と充実感が得られるわけです。
3-2-2.国家有機体説へ
これに関しては「なるほど」と思うのですが、
問題なのは彼の思想にはポリスの奴隷制度を理論的に肯定するような部分があるところです。
アリストテレスはこの流れで、あの悪名高き[国家有機体説]を提唱するに至ります。
準備中