家父長制とは | フェミニズムは家父長制と闘う学問である

屋敷

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フェミニズムにとって[家父長制]は最大の敵だと言えるでしょう。

家父長制(父権制)とは

男性→女性、年長の男性→若年の男性への支配に関するイデオロギー

※イデオロギーの意味については後述。

家父長制に関する議論が複雑なのは、おそらくフェミニズムの流派によって「家父長制は何故成立したのか」の解釈が違うからです。

今回はその点をまとめていきます。

1.ラジカル・フェミニズム的解釈

[家父長制]は、もともと人類学や社会学で使われていた言葉で、

  • 家長である男性が権威を持ち、生産物の配分の仕方などを決める制度
  • 奴隷制度のある社会封建社会に見られる。

このような意味を持っていました。まあ、「古めかしい社会に見られる家族の特徴」みたいな感じです。

1-1.ケイト・ミレットの発見

家父長制を拡大解釈し、冒頭で挙げたような意味を持たせたのは、ラジカル・フェミニストのケイト・ミレットです。

彼女はさらに、様々な分野のテキストを分析し、

あらゆる歴史上の諸文明は家父長的である。―それらのイデオロギーは、男性優位である。被抑圧集団は、教育、経済的自立、実権ある公職、代表権、尊厳と自尊の自覚、地位の平等、さらには一個の人間として認められること、を拒否される。

出典元:ケイト・ミレット『性の政治学』

という発見をしました。わかりやすく言うと、

  1. 女性は家父長制によって経済活動や公的な役割のみならず、一個人の尊厳や教育水準に至るまで男性優位社会から疎外されている。
  2. このことは歴史上のあらゆる文明社会で見られる現象である。

ということです。

1-2.男性の支配欲

おそらく、ラジカル・フェミニズムでは単純に「男性の支配欲が家父長制を成り立たせている」と考えるのでしょう。

ちなみに

「男性の支配欲」は性暴力(かなり拡大解釈された)とも関わっていて、それと闘うのがラジカル・フェミニズムの大きな課題です。

ラジカル・フェミニズムは家父長制よりも性暴力を目の敵にしている感じなのですが、いずれも「支配欲」がキーワードだと言えます。

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これも性暴力?フェミニズムにおける「性暴力」について

2.リベラル・フェミニズム的解釈

ローズマリー・リューサーは西洋哲学の始祖であるプラトンの哲学の中に家父長制を成立させた土壌を見い出します。

プラトン哲学は、

  • 男性性 →知性、精神、自律的な意志
  • 女性性 → これらとは反対の肉体(官能性)、感情、従属性

という定義づけをした、とリューサーは分析します。

さらに

女性性は統治する対象とされ、男性性の下位に置かれたというのも重要なポイントです。

このような考え方が家父長制、もっと言うと女性蔑視や男尊女卑を成立させた意識だというわけですね。

わかりやすく言うと、

女・子どもには分かるはずがない!

女は自分の半径1メートルの範囲のことにしか関心がない!

といった偏見。

リューサーはラジカル・フェミニストの一員とされているのかもしれませんが、彼女のこの考え方は、

  • 人間の理性に重きを置く。
  • そして「理性は男性的なものである」と社会によって規定されていることに対して不満を持っている。

という点でリベラル・フェミニズムの問題意識を強く体現していると言えるでしょう。

※ちなみに、プラトン哲学には確かにこのような側面がありますが、プラトンが哲学を作る以前から彼の故郷アテナイ(現アテネ)はこのような考え方に基づいた社会体制を持っていました。

3.精神分析フェミニズム的解釈

精神分析フェミニズムはかなり特殊な考え方をします。

家父長制文化を代表すると言ってほぼまちがいのないエディプス・コンプレックスは、ちょうど、男の分析家であるフロイトが文化のあり方を彼の方法に反映させて、彼の女患者たちに対して母の役割を曖昧にしたのと同じように、前エディプス段階を隠した。

出典元:ジュリエット・ミッチェル『 精神分析とフェミニズム』

後半の部分はさて置き、注目して欲しいのは、精神分析フェミニストは家父長制とエディプス・コンプレックスを結び付けて考えているという点です。

ちなみに

ここでの[エディプス・コンプレックス]とは、一般的なものではなくて女子のエディプス・コンプレックスです。

※女子のエディプス・コンプレックスについては、

4.マルクス主義フェミニズム的解釈

ここまでをまとめると、家父長制を生じさせた要因として考えられているのは、

  • ラジカル・フェミニズム → 男性の支配欲
  • リベラル・フェミニズム → 女性は非理性的であるという偏見。あるいは公的領域を独占したいという男性の願望。
  • 精神分析フェミニズム →エディプス・コンプレックス

となります。

マルクス主義フェミニズムも「男性の支配欲」にその要因を見い出すのですが、考え方はラジカル・フェミニズムよりもかなり複雑です。

4-1.イデオロギーとの対決方法

まず注意して欲しいのは、マルクス主義フェミニズムは、

家父長制の廃棄は、個々の男性が態度を改めたり、意識を変えたりすることによって到達されるようなものではない。それは現実の物質的基盤(制度と権力構造)を変更することによってしか達成されない。

出典元:上野千鶴子『家父長制と資本制』

と考えるということです。

家父長制とは、成人男性を優位にするイデオロギーの事でした。

そして、

イデオロギーとは

現実の問題を気付かなくさせるような思考パターンの事。

つまり、現実は成人男性優位なのにもかかわらず、それを意識できなくする思考パターンが[家父長制]だというわけです。

ということは、

気付かぬ内に男性優位な考え方をしている人に対して「その考え方はダメだ」と注意して、意識を変えさせなければなりません。

それがラジカル・フェミニズムやリベラル・フェミニズムの戦略でした。

しかし、「君は無意識に女性差別をしている!」と言われても、相手とっては心当たりがないかもしれないし、かなりの反発を招きますよね。

そこで

物質的基盤(制度と権力構造)を変更することによって、家父長制というイデオロギーを自然消滅させるというのがマルクス主義フェミニズムの方法です。

4-2.二つの物質的基盤

ハイジ・ハートマンはこのようにまとめます。

家父長制の物質的基盤とは、男性による女性の労働力の支配のことである。この支配は、女性が経済的に必要な生産資源に近づくのを排除することによって、また女性の性的機能を統制することによって維持される。

出典元:ハートマン『マルクス主義とフェミニズムの不幸な結婚』

わかりやすく言うと、

  • 女性を男性に経済的に依存させる、または二流の労働者にする。
  • 女性の性的機能(出産・哺育)を上手く管理する。

これらの仕組みを通して家父長制は維持されるということです。

よって、マルクス主義フェミニズムはこれらの物質的基盤の解体を目指すのですが、「女性の性的機能」は男性が家父長制を誕生させた動機とも関わるようです。

4-3.自然と人為

それがわかる文章をいくつか引用します。

男が種の再生産の手段から疎外されていることを超越したいという彼らの欲求の結果

出典元:メアリ・オブライエン『 再生産の政治学』

世代間の連続性を獲得するため、男性たちは、初潮から性交、受胎に至る女性の身体を、彼らの管理下におこうとした。そのために、宗教や社会道徳、慣習、神話などが総動員されてきたのである。

出典元:大越愛子『フェミニズム入門』

このままでは意味不明だと思うので翻訳すると、

  • 女性(もっと言うと、動物のメス)は出産や哺育の機能を通じて、子どもと自然なつながりがある。
  • それに嫉妬した男性は、逆に出産や哺育などの家庭的なものを女性に押しつけて、自分たちは政治・経済や教育を牛耳り、子どもの意識を男性的にしようとしている。

ちなみにこのような考え方をモロにしていたのがフロイトです。

しかし、フロイトはかなりの男尊女卑主義者だったものの、母子の絆は神聖なものと捉えていました。

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また、哲学に詳しい方は「自然(ピュシス)と人為(ノモス)」の対立をイメージしたらわかりやすいと思います。

4-4.母性は幻想?

大越愛子氏が「宗教や社会道徳、慣習、神話などが総動員されてきた」と述べていることに注目しましょう。

家父長制は家庭内の教育だけではなく、宗教や社会道徳、慣習、神話、学校教育やメディアなどによっても作られています。

そして、この「神話」の中には母性も含まれています。

「愛」とは夫の目的を自分の目的として女性が自分のエネルギーを動員するための、「母性」とは子供の成長を自分の幸福と見なして献身と自己犠牲を女性に慫慂することを通じて女性が自分自身に対してはより控えめな要求しかしないようにするための、イデオロギー装置であった。

出典元:上野千鶴子『家父長制と資本制』

つまり、「母性」も「夫への愛」も父親が権力者として君臨するための幻想に過ぎないというわけですね。

家父長制という概念の正体を突き詰めていくと、このような結論にも辿り着くのです。

以上です。ありがとうございました。
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