フェミニズム(feminism)という英単語は1910年以降に一般的に使われるようになりました。
フランスでは1837年の時点でフェミニスム(féminisme)という言葉が使われていたようです。
※語源はラテン語で[女性]を意味するフェミナ。
フランスはフェミニズムの発祥地なので、それだけ言葉の使用が早いのでしょう。
それでは何故フランスでフェミニズムが始まったのか、その理由には、かの有名なフランス革命が関わります。
今回は、歴史上最初のフェミニズムである「リベラル・フェミニズム」を、その誕生の経緯と共に紹介していこうと思います。
目次
1.リベラル・フェミニズムとは
リベラル・フェミニズムにおいては「フェミニズムとは女性の自由や平等を求める思想のこと」と定義できるでしょう。
ここで「リベラル・フェミニズムにおいては」と限定したのは、フェミニズムの流派によって[フェミニズム]の定義が微妙に違うからです。
※これについては後ほど解説します。
1-1.フランス革命への幻滅
「フェミニズムとは女性の自由や平等を求める思想のこと」…これとよく似た文言をどこかで見たことはないでしょうか。
実はフェミニズムは、フランス革命の基本原則となったフランス人権宣言(1789年)を補足する形で生まれました。
フランス人権宣言(正式名称:人間と市民の権利宣言)
[第一条]人は自由かつ権利において平等なものとして生まれ生存する。
人々の平等や人々に対する尊厳を高らかに謳ったこの宣言には大きな欠陥がありました。「人々」の中には女性は含まれていなかったのです。
※と言っても、動物のような扱いをしていたわけではなく「半人前」のようなニュアンスです。現在でも「女、子どもは半人前」のような考え方をする人はいますよね。
なお、女性蔑視だったのはフランスだけではありません。
- 女性は男性よりも知性で劣る。
- 女性は男性に服属すべきだ。
- 女性は自分の身の回りのことしか考えられず、社会のことを見渡す能力が無い。
などの男尊女卑的な考え方は昔から世界に遍くありました。
それはやはり女性にとっては不本意な話で、だからこそ当時の女性たちはフランス人権宣言に大いに期待していました。
しかし、その期待は裏切られたわけです。
1-2.オランプ・ド・グージュ
フランスの女優で劇作家でもあったオランプ・ド・グージュ(1748-1793)はフランス人権宣言が出された2年後の1791年に、
『女権宣言(正式名称:女性および女性市民の権利宣言)』を発表します。その第一章は、
女性は自由かつ権利において男性と平等なものとして生まれ生存する。
この宣言は多くの女性を勇気づけ、後世の人から「リベラル・フェミニズム」と呼ばれる運動を起こします。
様々な国家が婦人参政権を認めるのはまだ先の話(20世紀以降)ではあるものの、この運動こそがフェミニズムの起源だとされているのです。
1-3.メアリ・ウルストンクラフト
もう一人、リベラル・フェミニズムを語る上で欠かせないのが、イギリスの思想家メアリ・ウルストンクラフト(1759-1797)です。
彼女もオランプ・ド・グージュと同時期に女性の地位の向上のために尽力するのですが、その際ウルストンクラフトが男女平等の根拠として挙げたのが[理性]です。
※理性とは「物事を客観的かつ論理的に捉える能力」のことです。もっと深い意味もありますが、ここではそう捉えてください。
- 「理性的存在は皆平等」という理性への崇拝は、宗教の支配や世襲権力による支配からの自由を意味し、フランス革命の原動力ともなった。
- しかし、当時は「女性は非理性的存在である」とされていた。
という、先ほどのフランス人権宣言の時と同じような事情があり、それに反発したのがウルストンクラフトです。
彼女が具体的に批判したのは学校教育でした。
- 女性を男性に従属する存在として育てている。
- 女性は知識へアクセスすること自体が禁止されている。
このような状況を是正し女子の教育機会均等を認めるべきだというのがウルストンクラフトの主な主張です。を認めるべきだと主張したわけです。
これには教育を通じての女性の地位の向上だけでなく、女性の理性を磨き、それを発揮する機会の獲得という目的も含まれていたのでしょう。
そして実際に女学校を建設するという行動力を持っているのも彼女の特徴です。
女性が夫に経済的に依存するのではなく自立できる機会を与えるべきだとも主張しました。
これらの主張はあまりに先進的で、社会秩序を乱すと批判されることも多々あったのですが、現在はグージュの活動と並びフェミニズムの原点だとして称賛されています。
2.第二期フェミニズムとの比較
リベラル・フェミニズムは、次回紹介する社会主義フェミニズムと合わせて「第一期フェミニズム」と呼ばれます。
教科書的な説明では、
- 第一期フェミニズム →18世紀末から20世紀半ばまで。
- 第二期フェミニズム →1960年代から現在まで。
となりますが、実際にはリベラル・フェミニズムは現在も生き続けているので、上記のようにキッチリと区別できるわけではありません。
例えば、「ジェンダーギャップ指数の改善」などはリベラル・フェミニズム的な考え方です。
※対する社会主義フェミニズムは大分下火になりましたが、考え方は残っています。
それでは「第一期」と「第二期」は何が違うのか見ていきましょう。
2-1.男女平等と男尊女卑
リベラル・フェミニズムは「男女平等を実現したら、男尊女卑は解消される」と考えます。
先ほど、ほとんどの社会には「女性は半人前で、男性に服属すべきだ」などの男尊女卑的な考え方が蔓延っていると述べました。
リベラル・フェミニズムは法的に男女平等を保障していけば、そのような偏見もなくなっていくと考えるわけですね。
だからこそ様々な国で婦人参政権や女子の教育機会均等など様々な女性の権利の獲得に尽力してきたし、ジェンダーギャップ指数の改善を目指してきました。
2-2.なぜ女性にも及ばないのか
その成果もあり、様々な国で女性は諸権利を獲得したのですが、男尊女卑的な考え方は一向に無くなりませんでした。
そのような状況に対し、しびれを切らして登場したのが「第二期」です。
日本の代表的フェミニストである上野千鶴子氏は、
リベラル・フェミニズムは、なぜ男性に与えられた「人権」が、女性にも及ばないのか?という問いには答えられなかった。
出典元:上野千鶴子『家父長制と資本制』
と述べます。
「第二期」も男女平等を目指しはするのですが、それよりも「なぜ男性は女性を蔑視したがるのか」の理由の解明に重きをおくのです。
3.神経科学と理性的存在
リベラル・フェミニズムは法的な男女平等を掲げているだけではありません。
その根底には「男も女も[理性]を持つ存在であり、その限りにおいて男女は平等だ」という主張があります。
これは非常に重要な考え方です。
男女の能力の差異が生物学的に証明されても「共に理性的な存在である限り平等だ」という主張は残るからです。
もちろん「女は非理性的存在だ」という偏見とは闘わなければならないのですが、神経科学の発達により男女の脳の構造が違うことが強く指摘されるようになった現在、リベラル・フェミニズム的な観点は大切でしょう。
対する「第二期」は、「男女の自然な差異」という考え方が男女差別につながることに警戒します。
もし「性差」が、社会的、文化的、歴史的に作られるものであるなら、それは「宿命」とは違って、変えることができる。
出典元:上野千鶴子『差異の政治学』
この観点からラジカル・フェミニズムは[ジェンダー]という概念を提起するのです。