エートスの意味をわかりやすく解説 | 道徳や正義との関係は?


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哲学と言えば「人間とは何か」とか「人間の本来性とは」とか、なんとなく先天的なものを扱う学問のような気がしますよね。

しかし

哲学には後天的に備わってくる精神という概念があります。それが「エートス」です。

また、エートスは社会集団の中で育まれていくという特徴があります。

かの有名なソクラテス「大事なのはただ生きることではなく、善く生きることである」と言いました。

この言葉は人間の本来の在り方一人、ストイックに追い求めるソクラテスの姿を連想させるかもしれませんが、同時にソクラテスは

共同体(ポリス)の一員としてどのように生きるべきか」ということも探求していました。

このように哲学においてはエートスや社会集団は非常に大事なのです。

※おそらく、個人の頭の中で構築していくのが哲学だというイメージを付けたのはデカルトでしょう。

というわけで今回は「エートス」をわかりやすく解説していきます。

1.エートスの2つの意味

エートスには2つの意味があります。

エートスとは

  1. 習慣によって形成される精神。
  2. その社会集団に特有の気風。

エートスはおそらくのように集団に対して使われる機会が多いと思うのですが、一つずつ解説していきましょう。

1-1.習慣による形成

冒頭でも言った通りエートスは後天的に備わってくるのですが、「後天的な精神」を身につける方法は2つあります。

一つは「学習」で、もう一つは「習慣」です。

「哲学者は部屋にこもり頭をボリボリ掻きながら、本を読み思弁に耽る」的なイメージがあるかもしれませんが、一応、

アリストテレスは学習で鍛えられる「知性による徳」日々の生活の中で培われる「習慣による徳」のどちらも大切だと説いていたようです。

※ちなみに「知性」の方は直観知・実践知・製作知に分類されていき、いかにも哲学といった感じの議論になっていきます。

さて、エートスのの意味を詳しく言うと、

何らかの行為を反復することでそれが習慣になり、さらにそれが内面化することによって精神になったもの

だと言えるのですが、

このような習慣づけは社会の中で行なわれるので、エートスはその人が所属している社会や民族の気風を反映しています。

※ちなみに習慣・習慣づけ「エトス」と言います。エトスによってエートスは身に付くみたいな感じです。

1-2.社会集団の中で育まれる

というわけでエートスのの意味にも実は、社会や民族の気風という含意があるようです。

詳しく言うと、もともとエートスは

  • (1)住み慣れた場所。
  • (2)慣れた行動の仕方。習慣。慣習。習俗。
  • (3)それらとの関連で形成された人柄、気質、性格、品性。

を意味するギリシャ語です。

住み慣れた場所=故郷で生活する中で形成された人格ということなのですが、

面白いのはエートス(ethea)を基にして「道徳」を意味するethikosという言葉が生まれたということです。

また、エートスのラテン語訳はモーレスモラルの語源なので、やはりエートスは道徳感情に関わっているのでしょう、

しかし、「社会や民族の気風」と「道徳」が同列に扱われるのは少し違和感がありませんか?

実は

道徳感情は自分の所属している社会集団の掟が内面化されたもので、それを守ろうとするための心の働きである

という議論もあるのです。辞書で「道徳」の意味を確認すると、

どう とく だう- [0]【道徳】

ある社会で、人々がそれによって善悪・正邪を判断し、正しく行為するための規範の総体。法律と違い外的強制力としてではなく、個々人の内面的原理として働くものをいい、また宗教と異なって超越者との関係ではなく人間相互の関係を規定するもの。

②小・中学校において、道徳教育を行う教育課程。1958年(昭和33)に設置。

③〔もっぱら道と徳とを説くことから〕 老子の学。

出典元:三省堂 大辞林 第三版

このように「ある社会で」と限定されています。

全人類に共通の「道徳」を模索した哲学者としては、例えばカントが有名でしょう。

彼の「定言命法」はいかなる条件下でも成り立つ普遍的な命令です。

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定言命法

道徳と似た言葉に「正義」がありまが、こちらの方が人間全体が従うべき道理というニュアンスがあります。

※もちろんアリストテレスも「正義」について議論していますが、最近ではサンデル教授の正義論が有名ですよね。

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正義

2.ウェーバーのエートス

エートスについて議論する際に高確率で登場するのがアリストテレスと社会学者のマックス・ウェーバーです。

ウェーバーはエートスの働きを再評価し人間社会を分析するうえで欠かせない心性と位置付けたのですが、

ウェーバーの著作にもエートスの具体例が出てきます。

その著作とは、かの有名な『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』です。要約すると、

  • プロテスタントが質素に勤め禁欲的に働き、富を蓄積したことが西洋社会で資本主義を成立させる大きな要因になった。
  • このようなプロテスタントの態度はまさに「エートス」の一例である。

この理論は欲望で稼働する資本主義が成立するまでの段階では、逆にプロテスタントの禁欲な精神が重要だったという画期的な主張でした。

※また、これは「人間の社会的存在がその意識を規定する」でお馴染みのマルクスの唯物史観に対する批判でもあります。

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準備中

そんなウェーバーですが、彼はエートスをアリストテレス的な議論から先に進めます。要約すると、

  1. まず第一に、エートスはその社会の中で習慣によって形成された意識や行為である。
  2. しかし、ただ反復されてもその行為はエートスにはならない。エートスになるにはその行為が意識的に選択され、主体的に実践されなくてはならない。
  3. そして、その行為を選択する基準が「正しさ」である。「正しい」行為とは、目的のための手段とするのではなくそれ自体を目的とするような行為である。

はギリシャ的エートス、はカントの定言命法的ですね。

つまり

ウェーバーのエートス論は、ある一つの社会で形成される精神と普遍的に正しいとされる精神を一致させているわけです。

しかし、これだとどの社会でも推奨される行為は同じになり、その社会特有の文化や気風、慣習といったものがなくなりそうですが、

ウェーバーはこのように考えていたようです。

また、の「意識的に選択」というのもポイントです。

ギリシャ的エートスは無意識、あるいは主体的に行為できる年齢以前から何度も反復されることによって身に付いた精神

というニュアンスなので、この点も独特なエートス論だと言えます。

以上です。ありがとうございました。
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