愛着障害の正しい定義 |「2歳まで3歳まで」という考え方は古い!

母親と子供

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愛着障害とは何か…その答えは精神科医によって違います

例えば

愛着障害とは親(特に母親)と2歳までの間に強い心の結びつきを形成できなかった場合に起こる障害である

というのが伝統的な定義なのですが、実はこれは脳科学が発達する以前のものにすぎません。

現在では

5歳までの間」が重要な時期だと考えられています。

科学的な分野は新しいものの方が良いです。

症状の分析や治療方法を考える上でも脳科学の成果を取り入れるべきだと思いますが、

だからといって古い定義を無視していいとも思いません。

なぜなら

愛着障害の様々な定義を学ぶことで子育て全般に関わる重要な問題を浮かび上がらせることができるからです。

これについては最後の「まとめ」の章で書きましょう。

1.愛着障害とは【高橋和巳Ver.】

2歳,3歳くらいの子供

まずは高橋和巳氏による愛着障害の定義を見ていきましょう。高橋和巳氏は伝統的な定義に即して

愛着障害とはボウルビィが述べるように生後~2歳くらいまでの間に、

養育に継続的に責任を負う大人(多くは母親)に出会わなかったために、愛着関係を築くことができなかった子どもたちの障害である。

出典元:高橋和巳『「母と子」という病』

と述べるのですが、今回注目したいのは「2歳くらいまで」という部分です。3歳くらいまでという人もいますが、

これから言う注意はどちらにもあてはまります。

ちなみにボウルビィは、愛着障害に関する理論(愛着理論)を提唱した人です。

1-1.三歳までの記憶

人間には2,3歳の頃の記憶などありません。したがって、子供は「3歳までに母親と心の結びつきがあったか」など覚えていません

よって、3歳までの頃の母子関係は推測しなければならないのですが、

この推測こそが、伝統的な定義の最大の特徴の1つといえるでしょう。

現に高橋氏は、診療所を訪れた母親の様子を観察して、「2,3歳くらいの頃に母子の間に心の結びつきはあったのか」を推測しています

1-2.多岐にわたる「症状」

拒食症(摂食障害)・不登校や家庭内暴力・自殺未遂・反応性愛着障害・チックや抜毛・夜尿症・離人症・解離性障害・うつ病・パニック障害ほか、漠然とした「生きにくさ」等々

高橋氏によると、これらが愛着障害の症状です。

「3歳以前の頃、母親から大切にされなかった」というトラウマがこのような諸症状を引き起こすわけです。

それでは、これらの症状を治すにはどうすればよいのでしょうか。

1-3.治療方法

母親からの安心感が足りなかった場合

子供は強い自己否定感過剰なストレスを抱えたまま成長していくことになる。

このことが原因となって様々な症状が引き起るわけです。よって

安らぎを与えてくれる誰か安全基地と呼ばれる人)と出会うか、何らかの目標を持つかして、

自己肯定感をもつことが克服への一歩とされています。

2.愛着障害とは【岡田尊司Ver.】

1歳くらいの子供

以上が愛着理論の伝統的な定義なのですが、岡田尊司氏はこれをさらに厳格化していると言えます。

生後6カ月から1歳半くらいまでが、愛着形成にとって、最も重要な時期とされる。この「臨界期」と呼ばれる時期を過ぎると、

愛着形成はスムーズにはいかなくなる。

出典元:岡田尊司『愛着障害』

1歳半くらいまで」と期間が短くなっています。

2-1.一歳半まで

「1歳半以前」の赤ちゃんは言葉が満足にしゃべれないため、スキンシップによるコミュニケーションが主になってきます。

よって、もし子供が愛着障害になったら「1歳半になるまでの子供に対するスキンシップが足りなかった」ということになるのですが、

会話であれば子供の反応もわかりやすいのですが、スキンシップが足りているか否かは子供の反応を通してもわかりにくいでしょう。

この事から、岡田尊司氏の定義は極めて厳格であると言えます。

2-2.さらに多岐にわたる「症状」

岡田尊司氏は、上述した高橋和巳氏による分析に加え

結婚や子供を持つことや社会に出ることへの拒否臆病さや怒りやすさなどネガティブな性格

さらに

今日、社会問題となっているさまざまな困難や障害

出典元:同上

にまで愛着障害は潜んでいるのではないかと指摘しています。

2-3.治療方法

高橋和巳氏における治療方法とおおむね変わりません。

3.愛着障害とは【水島広子Ver.】

泣いている子ども

水島広子氏は、自信が研究する「毒親」を理解するためのアプローチとして愛着理論を使っています。

子どもが小さい頃から、その育児姿勢が一貫して子どもの安定した愛着形成を妨げてきた親のみを「毒親」と呼ぶことにします。

出典元:水島広子『「毒親」の正体』

この「小さい頃から一貫して」がポイントです。

3-1.幼児期からずっと

「小さい頃から一貫して」ということは、つまり

幼少期からある程度成長するまでずっと親子関係が上手くいってなかったということです。

これは、岡田尊司氏たちの想定とは大きく異なります。なぜなら

岡田尊司氏たちは

幼少期における親(特に母親)との経験のみでその後の人生が大きく変わる」と主張しているからです。

この2人の考え方は斬新である反面、

  • 愛着障害の人には「自分は手遅れじゃないか」と不安を抱かせる
  • 親に対しても過剰なプレッシャーを与えてしまう

という欠点があります。

3-2.毒親への対応

話を水島広子氏に戻しましょう。水島氏は毒親との関連で愛着障害を考えているため、その治療も

毒親との関わり方を見直す。愛着障害も回復する。

というプロセスで捉えています。

4.愛着障害とは【友田明美Ver.】

5歳くらいの子供

友田明美氏は前者3人とは異なり脳科学の成果を用います。

子どもは生まれてから5歳くらいまでに、親や養育者とのあいだに愛着(強い絆)を形成

出典元:友田明美『子どもの脳を傷つける親たち』

そして、この強い絆を形成できなかった子供が愛着障害を抱えてしまうのです。

親との幼児期の時点での心の絆が大事だというのは前者の3人と変わりませんが、友田氏は「5歳くらい」と時期を長くしています。

私はこの考え方は岡田尊司氏等の考え方より理にかなっていると思います。

4-1.愛着障害と脳科学

なぜなら

「5歳まで」は脳が発達する上で非常に重要な時期だからです。

そして

この時期に親から不適切な扱いを受けると脳が上手く成長できず、その結果様々な問題を引き起こしてしまいます

4-2.マルトリートメントによる症状

「親からの不適切な扱い(マルトリートメント)はどのようなものだったのか」によって子供に見られる症状の種類も異なります

例えば、幼児期に親から体罰を受けると、脳の集中力や意思決定を司る部分にダメージを受けます。

その結果、パニック障害になったりや非行を繰り返すようになったりしてしまうのです。

4-3.脳の治療

逆に言えば

脳科学の見地を取り入れると、現在の症状から脳のどの部分が傷ついているかを逆算できることになります。

そして、その傷ついた部分を治療すれば良い。

具体的には認知行動療法薬物療法がそれに当たるのですが、

この分野は既に治療の成果が出ているうえに、現在進行形で発展している魅力的な分野でもあります。

このような治療が可能なのは脳には可塑性(回復能力)があるからです

つまり

治療の可能性という点でも脳科学的なアプローチは魅力的なのです。

5.愛着障害とは【まとめ】

母子関係の図

このように、愛着障害の解釈に脳科学の見地を取り入れることは

  • 症状の分析を明確化する
  • 治療方法を考える際にも有益

ということが言えます。

一方、岡田尊司氏等の子供の物心がつく前の母子関係に法外な価値を置く考え方は、推測という側面が強いにもかかわらず

多くの人の心の琴線に触れるのではないでしょうか(もちろん不快感を抱く人もいます)。

子育ての理論にはこの種の心情に訴えかける型のものが多いのです。

対する、水島広子氏はどこか現実主義的なところがあります。

その姿勢は水島広子氏の診断にも見られるのですが、その点は後日詳しく取り上げようと思います。

参考文献

高橋和巳「母と子」という病

岡田尊司愛着障害

水島広子「毒親」の正体

友田明美子どもの脳を傷つける親たち

以上です。ありがとうございました。
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