子育ては母親がやるべき理由を「愛着理論」を使って解説


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愛着障害」という言葉は精神医療に関心のある方の中では有名だと思いますが、それに比べて

「愛着理論」がどのようなものなのかはあまり知られていないと思います。文字通り「愛着」や愛着障害に関する理論のことなのですが、

実は

一種の子育て論でもあり、「子育ては母親がやるべき」という古い価値観を助長する側面もあるのです。

愛着理論の根底には「親(特に母親)は子どもの一生に影響を及ぼす」という子育て神話あるいは母性神話があります。

典型的なのは精神科医の岡田尊司氏のこの発言です。

母親は、子どもの対人関係だけではなく、ストレス耐性や不安の感じ方、パートナーとの関係や子育て、健康や寿命に至るまで、生存に関わる影響を、それこそ生涯にわたって及ぼす。やはり特別な存在なのである。

出典元:岡田尊司『回避性愛着障害』

このように岡田氏の場合は母親を重視しているようです。このスタンスは様々な精神科医から批判されているのですが、

愛着理論の解釈で最も有名なのは岡田氏のものなので「愛着障害=母親の不適切な子育てで起こる」と理解している人が多いのが現状です。

それでは岡田氏に代表されるような愛着理論の専門家たちは何故これ程までに母親を重視しているのかを確認していきましょう。

※今回の記事は「愛着理論」の知識が前提となるので、

こちらも併せてお読みください。

1.元々の愛着理論

元々の愛着理論、つまりジョン・ボウルビィが提唱した頃の愛着理論では母親を重視していたようです。

精神科医の高橋和巳氏はボウルビィの理論を参照しながら以下のように言います。

1-1.生物学的な機能

愛着障害とは、ボウルビィが述べるように生後~2歳くらいまでの間に、養育に継続的に責任を負う大人(多くは母親)に出会わなかったために、愛着関係を築くことができなかった子どもたちの障害である。

出典元:高橋和巳『「母と子」という病』

ここでは「多くは母親」と言っていますが、

「母と子」という病』という著作名からわかるように、紹介している精神的トラブルは全て母親が原因です。

高橋氏はこのようにも言います。

母親とは限定していないが、1~2歳くらいの間、母乳を与え世話をするという生物学的な機能を考えれば、多くの場合、それは「母親」となる

出典元:同上

よって「子育ては(少なくとも2歳までは)母親が行なうのが自然だ」ということでしょう。

確かに、母乳を与えられるからという理由で母親に子育ての負担を求める人はたくさんいますが、この意見には批判もあります。

1-2.家庭での男女の役割

家庭での男女の役割分担がはっきりしていたボウルビィやエインズワースの時代には、安全基地の役目を果たすのは「母親」とされることが多かったようです。しかし、現代社会では、父親や祖父母、ほかの保護者が子どものこころのよりどころとなることも少なくないでしょう。

出典元:友田明美『子どもの脳を傷つける親たち』

脳科学者の友田明美は「生物学的な機能」ではなく、「家庭での男女の役割分担」という観点から、

現代社会では母親にばかり子育ての負担を押し付けるのは良くないと述べているようです。

一言で言えば

友田氏は現実主義的な立場から主張しているわけですね。

2.非現実的な力

神

一方の高橋氏には先ほどの「生物学的な機能」という観点に加え、美意識でもって母性を礼賛しているような側面もあります。

2-1.運命だから

あなたが生まれてくる前には、心の現在地は母親の胎内であった。生まれてしばらくは心は母親の目の前、母親のごく近くにあった。こうして心の現在地は母親の元から始まり、以後、日々、変化していく。

出典元:高橋和巳『「母と子」という病』

高橋氏の著作にはこのようにポエムのようなものが目立ちます。他には

出発点は母子の愛着関係にある。そこでできた自己イメージの大枠は、おそらく生涯を通じて変わらない。それは、よいも悪いも、生まれながらに背負った運命だ。運命は変えられない

出典元:同上

「医療者が運命論を持ち出していいのか」と思う人もいるでしょうが、

このような「母親が子どもの運命を決めるほど強大な力を持つ」という主張に対し賛同する人もいるでしょう。

2-2.哺乳類の本能

岡田氏も「現実的な認識を超えた強大な力」を母親や母性に見出そうとします。

乳離れするまでの間、母親は子どもを体に密着させているか、そうでないときでも、手元におき、目を離そうとしない。それは、愛着システムによって生存が支えられている哺乳類の本能である。その本能に背くことは、子どもにも、母親にも無理を強いることになる。

出典元:岡田尊司『回避性愛着障害』

しかし「哺乳類の本能」が人間に適用できるかはわかりませんし、

さらに言えば

別に全ての哺乳類の母親が子どもを体に密着させているというわけではありません

例えば、

野生のウサギは、子どもを産むとすぐに子どもを置いて巣穴を出て行ってしまい、その後は一日に一度くらいしか様子を見にこないことが多いんだそうです。

出典元:フェルミ研究所『本当に怖い動物の残酷すぎる子育て10選』

ハムスターは多くの子どもを産むのですが、何らかの影響で子育てができなくなった場合子育て可能な数だけ残してあとは食べてしまいます

このように「哺乳類の本能」は岡田氏の理想とはかけ離れているのですが

本能」という言葉を使いたがる時はたいていその人の理想を述べている時だと思っていいでしょう。

つまり、岡田氏は「母親は子どもに常に献身的であるべきだ」と述べているわけです。

3.さらに隠されている理由

悩む母親

以上のように「子育ては母親がやるべき理由」として愛着理論の専門家が挙げるのが「生物学的な機能」「哺乳類の本能」「運命」です。

生物学的な機能」「哺乳類の本能」は理由としてはかなり弱いのですが、「運命」は一定数の人々には説得力を持つでしょう

3-1.感動するから

岡田氏は『母をたずねて三千里』例えに出しながらこのように言います。

イタリアのジェノヴァから、母親に会うためにはるばるアルゼンチンまで一人旅をするマルコ少年に感動するのは、われわれも同じような気持ちをもっているからだろう。

出典元:岡田尊司『愛着障害』

確かにマルコ少年の行動には感動します。

しかし

だからといって「母親に子育ての責任を押し付けるべきだ」という科学的根拠にはならないでしょう。

「母親は子どもの一生に影響を及ぼす強大な存在だ」という愛着理論的主張は感動的かもしれませんが、

  • 科学的に正しいのか。
  • 背後に「そうあるべきだ」という個人的な理想が隠されていないか。

という点に注意しましょう。

3-2.理想論

先ほどの「哺乳類の本能」の件だけではありません。

岡田氏の著作を読んだことがある方なら、岡田氏には理想論こじつけのような説明が多いことが分かると思います。

読み物としては面白いかもしれませんが、「有名な専門家だから」という理由で発言を簡単に信じてしまう読者の方も多いようです。

しかし、岡田氏本人も

専門家を選ぶ場合も、変にカリスマ性の高い人や、安請け合いする人は、用心した方がいい。

出典元:岡田尊司『愛着障害の克服』

と言っているように、

有名だから」とか「聞こえの良いことを言っているから」という理由で専門家の意見をうのみにするべきでありません

岡田氏の発言の問題点については

こちらにまとめたのですが、岡田氏の熱心な読者には特に読んでもらいたいです。

また、岡田氏の理想論には「子どもは保育園に通わせるべきではない」というものもあります。

子どもを保育園に通わせていた方や保育園に通っていた方などは

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以上です。ありがとうございました。

※「愛着障害」に関する全記事はこちら

愛着障害【全知識】
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